口語訳聖書の誤訳例

翻訳は、文法も意味もニュアンスも異なる言語間で行われるわけですから、難しいのはやむを得ません。聖書翻訳には、翻訳者の苦労の跡がたくさん見つかります。ですから、少しくらい間違っていても大目に見てあげたいのですが、しかし、聖書を研究する立場からすると、やはり不用意な誤訳、もしくは不適切な訳語の選択はなるべく避けて貰いたいと願わずにはおれません。

口語訳聖書は、比較的問題訳が少なく、良い翻訳として評価していますが、いくつかの点で問題であると言わざるを得ません。

ひとつは、ヘブル語で「契約を結ぶ」と書かれているところを、「契約を立てる」と訳してしまった例が幾つもあることです。「契約を結ぶ」と「立てる」は、J資料、P資料の指標となる重要単語ですから、これはちゃんと訳して貰いたいと思います。

「契約を結ぶ」とは、ヘブル語でKRT BRYTで、直訳すると「契約を切る」となってます。「契約を立てる」は、QWM BRYTで、「契約を立てる」となっています。この違いの背後に、使われた資料の違いがあるというのが、今の聖書学の立場となっています。ですから、この部分は、原語に従って、綺麗に訳し分けて貰いたいのです。

ところが、口語訳は、なぜか「結ぶ」と訳すべきところを「立てる」としている例があります。たとえば、エレミヤ31:33で「わたしがイスラエルの家に立てる契約はこれである。」とありますが、ここのヘブル語は、KRT、つまり「契約を結ぶ」なのです。

また、レビ記26:45では、KRTも、QWMも使われていないのに、「先祖たちと結んだ契約」と訳している事例があります。本来なら、「先祖たちとの契約」とすべきでしょう。

また、逆に、QWMを「結ぶ」と訳した例もあります。創世記6:18です。「私はあなたと契約を結ぼう」とありますが、ヘブル語は「立てる」です。

以上の例は問題訳のほんの一例に過ぎません。口語訳だけではありません。新改訳にも、新共同訳にもありますので、やはり、厳密に聖書を読もうという人はヘブル語とギリシャ語を勉強しなければなりませんね。